92.追憶とおっさん―7
違和感には気が付いていた。
ヴラディオを追い、突入したはずのジルヴァニア城内。
道中、薄闇に包まれた通路を通った際に、後から付いてきているはずのキット達の姿は無くなっていた。
(ヴラディオの影魔法か?)
疑問はあれど、逃げ続けるヴラディオの背中を追い続けるしかない。
だが、それが自分を誘き出すための餌だと気が付いたのは、グルゥが玉座の間の扉を蹴破った後だった。
「……なん……だと!?」
自分より先に、玉座の間に入ったはずのヴラディオ。
だが、そこにいるはずの姿は無く――代わりに、フードを深く被った子供が、玉座にて足を組んでいる。
そして、部屋の左右には、傷だらけになり意識を失った、マリモとカエデの姿があった。
「あー、釣れた釣れた。ようこそ、“王の間”へ」
「お前、ユグドラシズかッ!?」
「そんなの、今さら言わなくても分かるでしょ? ずっと待ってたんだよね……君がここまでやって来るのをさぁ」
両手を広げ、雄弁に語るユグドラシズ。
すぐにでも殴りかかりたいところだが、グルゥは左右のマリモとカエデを見やった。
「あ、安心してよ、二人とも生きてるからさぁ。さすがにゲームマスターが異世界勇者を手にかけるってのは、ルール違反で怒られちゃうからね。でも、君にとっては既に死んでた方が助かったかな? 思うように暴れられないからねぇ」
ユグドラシズは饒舌で、愉しそうに語っていた。
まるで、グルゥと話すことを待ちかねていたようである。




