10.イカとおっさん―2
「ま、まずいこと言ったかなぁ」
サリエラの落ち込み方を見て、その心配をしつつも、グルゥは黙々とイカを捌き続ける。
(今の自分に出来ることは、これくらいだ)
キットのことを思うと、いてもたっても居られずに、テュルグナへ向かって走り出したい衝動に駆られるのだが、それが悪手であることはサリエラから聞いた通りだ。
であれば、今は少しでも、自分を助けてくれたサリエラとその家族に恩返しがしたい。
ただそれだけの思いで、グルゥはバケツからトリドリイカを掴みあげると、作業板の上に乗せ、包丁を丁寧に入れていく。
「ねぇねぇ、おじさん」
すると、家から戻ってきたサリエラに声を掛けられ、グルゥは後ろを振り向いた。
その瞬間である。
「どわーっ!?」
真っ赤な液体が噴出されたかと思うと、それはグルゥの顔に思い切りかかった。
慌てて顔を手で拭うが、それはトリドリイカの墨のようである。
「トリドリイカは、手でぎゅっと握ると一気に墨を放出するんです。どう? 面白い習性でしょう?」
イタズラっぽく微笑むサリエラ。
サリエラは、さっきのグルゥの言葉の仕返しに来たのである。
「そう、だな……なかなか、面白い習性じゃないか!」
お返しとばかりに、グルゥは手にした黄色いトリドリイカの墨をサリエラ目掛けてぶちまけた。
きゃーっと悲鳴をあげて、サリエラはグルゥから逃げ回る。




