92.追憶とおっさん―1
勝負の行方は、意外な方向に転がっていた。
「はぁ、はぁ……ったく、なんでボクが、こんな目に合わなきゃいけないのさ」
血の滲んだ肩を抑えて、壁にもたれかかるユグドラシズ。
その前には、マリモとカエデが立ち塞がっていた。
「あなたの悪行も、ここまでよ……! もう分かったでしょう? あなたの魔法では、私達のチートスキルには勝てない」
「ま、考えてみれば当然だよね。チートスキルは魔神の力を源にしてるんだろ? だったら、こっちの世界の魔法よりも強いのは当たり前で……って、そんなこと、ゲームマスターのお前だったら分かってると思うけどさ」
弓と刀を構え、ユグドラシズに迫る二人。
ユグドラシズの口元には、乾いた笑いが浮かんでいた。
「……ははっ。なーんだ、結構いいところまで分かってるジャン、君達」
「何、開き直ってるんだよっ! 私は絶対、勇者戦争なんてものに私達を巻き込んだお前を、許さないッ!!」
「だったら、ここまでは考えなかったのかなぁ……? ゲームマスターなんだから……同等の力が使える、ってことにね」
ボロボロの状態だったはずのユグドラシズが――一瞬で全快した。
「チートスペル“完全回復”。そろそろやっちゃってもいいかなぁ……? 種明かしってヤツをさァ……ッ!!」
うざったそうに、目深に被っていたフードを引き千切るユグドラシズ。
そこから現れた者の姿を見て、二人は驚愕し、硬直した。




