91.魔獣とおっさん―10
真っ青だったブランの顔色が、みるみるうちに良くなっていく。
対照的に、若さを手に入れたはずのヴラディオの顔には、急速に皺が刻み込まれていた。
「私には、魔力が無かったのではありません。ただ、圧倒的なドレインの力が引力のようになり、それを発現することが出来なかった」
「貴様ッ!! 我を超えるドレインパワーなど――こんなことッ!!」
「“失敗作”……確かに、その言葉の否定はしません。あなたにとって、最悪の相性を持つ敵は……他ならないこの私だったのですから」
左手の手刀で、ヴラディオは自らの右腕を切り落とした。
このままではブランにドレインされ続けると、そう判断したのだろう。
だが、ヴラディオは既に力の大半を失っており、その髪には白いものが目立つようになっていた。
「こんな……こんなゴミカスの集まりに、我がやられるなどッ……!!」
影の翼を生やしたヴラディオは、高速で宙を飛び、城内に戻ろうとした。
「待つだっ!!」
とっさにルッタが、その背中に凍て付く波動を放った。
その甚大な魔力は、影であるはずのヴラディオの翼すらも凍らせる。
粉々に砕ける翼。
地面に墜落したヴラディオは、それでもなお、城内に駆けていった。
「チッ、往生際の悪いヤツだな! まだ城の中に何かあるってのか」
「城内に……? まさかっ」
悪態をつくキットだが、それを聞いてグルゥの背中にゾッと悪寒がはしった。
城内にはまだノニムや、攫われた魔人の子供たちがいるはずだ。
それらをもし、再び力の源として利用されたら――
「追うぞ、みんなっ!!」
逃げ去るヴラディオの背中を追い、グルゥ達は城内に突入していく。




