91.魔獣とおっさん―9
「今まで、私は分からなかった。どうして、私に魔導の才能が無いのか。己の無力さを呪ったこともあった。だけど、今なら分かる――私の力は、今、この時のためにあったのです」
その口上が終わるやいなや、ブランは剣を水平に構え、その腹をヴラディオの腕に貫かれていた。
一瞬の出来事だ。
ブランが、一歩進む暇すらない。
「失敗作が」
ブランの耳元でヴラディオが囁く。
膨大な量の血を吐き出したブランは、倒れそうになるのを辛うじて堪えていた。
「何を血迷ったのだか……もう少し、知恵はある者だと思っていたが。それすらも無いとは、もはや生きる価値の無い屑だな」
「ブランッ!!」
慌てて駆け寄ろうとするグルゥだったが、ハッとして足を止める。
ブランの目は、まだ光を失っていない。
むしろ、これで良かったのだと言わんばかりに、薄い笑みを浮かべていた。
「やはり……ですね。王よ、あなたの慢心で、真っ先に私を狙うと思っていましたよ」
「なに……?」
「お忘れですか? これでも、私はあなたの子なのです。ヒトとヴァンパイアのハーフ……私にも、その特質が備わっていた」
ブランの指が、己を貫くヴラディオの太い腕に突き立てられた。
その瞬間に、ヴラディオの表情が苦悶に歪む。
「なッ……まさか、貴様ッ、この力は――」
「“魔力吸収”……サリエラの力を、返してもらいますよッ!!」




