91.魔獣とおっさん―7
現れた可愛らしい助っ人の姿に、ヴラディオはフンと侮蔑するように鼻を鳴らした。
「たかだか子犬が一匹。この場に来たところで何になる?」
「おっと、悪いけど実はオレも前座で……真打ちは、これから登場するんだぜ」
持ち前の足の速さを生かし先行したキットだが、増援は他にも居たのだ。
「すみません、グルゥさん。ボクらがもっと早く目的を達成していれば、ここまでもつれずに済んだのに」
ミノンが連れて来たのは、一組の男女だった。
一人はブランで、今までの呆けた顔とは違い、真剣な眼差しでヴラディオを睨んでいる。
そして、もう一人は――
「……ゲシュリカ? 貴様、何故ここに……ッ!?」
ヴラディオの顔には、明らかに動揺の色が浮かんでいた。
サファイアのような美しい瞳と髪を持つ彼女の名は、ゲシュリカ・アイゼルファフテイン・リンゲルッタ。
ルッタと名乗る――翡翠の血封門の守り人だ。
「もう……もうやめるだぁ!! こんなことっ……!!」
潤んだ瞳で、ルッタはヴラディオをじっと見つめていた。
その瞳には、怒り、悲しみ、そして愛――様々な感情が浮かんでいる。
「我を止めるよう、唆されて来たのか。この愚図めが……ッ!!」
「唆されて、じゃないです……だ。大事な娘を守るため……私は、私の意思で、ここまで来ただぁ!!」
大事な娘――その言葉を発した時、ルッタがかすかに横目で見たのは、サリエラだった。




