91.魔獣とおっさん―6
(クッ、間に合わない……ッ!!)
いくら最強の破壊の力を得ようと、その発現の前に息の根を止められては元も子もない。
分かってはいたが、指一本動かせない状況に、グルゥは絶望を覚える。
片目で覗くヴラディオの動きがやけにゆっくりで、このままやられるしかないのかと、グルゥは覚悟した。
「死ね」
たった二文字。
それがヴラディオがグルゥに送る、餞の言葉だった。
突き出される影の剣。
氷嵐の中を抜け、さらにグルゥの両腕を貫通した切っ先が、熱球へと到達する。
その、刃先が触れようとした、まさにその瞬間だった。
氷嵐を弾くような、空気を切り裂く雷。
とっさにヴラディオは横に跳び、影の剣は熱球を浅く裂くのみに留まった。
(ぐあ……ッ!?)
だが、それだけでもグルゥにとっては大きなダメージだ。
全身の体温が熱球に集まり、かすり傷の修復を優先しようとしているのが分かる。
(まさか、ここまでの弱点になるとはな)
辛うじて踏みとどまったものの、その衝撃は立っていられなくなりそうな程だった。
そして、何よりも気になるのは今の雷。
「おっ待たせー……へばってんじゃないぞ、親父ィ!」
出し抜けに響いた、底抜けに明るい声。
その声を聞いただけで、グルゥの心の奥底の黒い炎が晴れ、希望が湧いてくる。
「キット、お前はすぐ、調子に乗って……!!」
「へへっ。いっつも親父に助けられてきたんだ、たまには逆の立場だっていいじゃん?」
振り返った先にいたキットは、尻尾を大きく振り回して、感情を露わにしていた。




