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91.魔獣とおっさん―5

 あっという間の出来事だった。


 瑞々しい、透き通るようなサリエラの肌が一瞬にして枯れ、老婆のような皺だらけの姿になる。

 それだけの勢いで、ドレインを行ったのだろう。


 満身創痍だったヴラディオは一瞬にして完治し――


「滾る……滾るぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 サリエラとは対照的に、眉間に刻まれていた深い皺は無くなり、全身に生気が満ちている。

 精悍な若者のような姿になったヴラディオは、力を吸い尽くしたサリエラを、ゴミでも投げるように路面に捨て置いた。


「な……貴様、自らの娘を……ッ!?」


「何を驚く必要がある? 愛だよ、愛。これが親子愛というものだ。我が作り出した最高傑作を、我が血肉とすることで、その成果を実感として得ることが出来る。覚醒は間に合ったのだ」


「貴様……っ!! 初めから、そのつもりで……ッ!!」


 湧きあがる『憤怒』に、グルゥは再び魔獣化を果たそうとした。

 が、それよりも早く、ヴラディオの手から放たれた冷気がグルゥの体に纏わりつく。


「クッ」


「やはりそこが……弱点のようだな」


 グルゥが胸の熱球を腕で覆ったのを、ヴラディオは見逃さなかった。


 熱球はグルゥにとって、露出している心臓のようなものだ。

 その温度を下げられては、魔獣化も行えず、本来の力すら出せなくなる。


 容赦のない氷粒の嵐が、グルゥを襲った。

 グルゥが動けなくなっている間に、ヴラディオは影の剣を一本手に持ち、熱球に狙いを定める。

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