10.イカとおっさん―1
「えええええええええええええええええええええっ!?」
サリエラの驚きの叫びが、ニサードの村中に響き渡った。
それもそのはずで――グルゥの包丁捌きはあまりにも華麗で、そのゴツい見た目にはとても似つかわしくないスピードで、テキパキとイカを捌いていく。
「ま、独り身の時期が長かったからな……簡単な料理なら出来るさ。サリエラは、捌いたイカを干すのを担当してくれるか?」
「な、なんか屈辱です……! 私だって、イカを捌くことくらい……!」
負けられないと思ったのか、闘志を燃やすサリエラ。
だが、
「えいっ!」
「おい、どっかに飛んでったぞ!?」
「やぁ!!」
「危ないっ、私を殺す気か!?」
「とうっ!!」
(軽く刺さったけど腹筋で止まったし黙っておこう……)
サリエラの包丁捌きは、それはそれは酷いものだった。
本当にこの村の生まれなのか? と若干疑わしく思えてくるグルゥ。
「な、なんですか……そんな哀れむような目で私を見て!?」
「い、いや、その。やっぱり、捌くのは私がやるよ。その方が、流血沙汰にならなそうだ」
さり気なく酷いことを言いながら、グルゥはサリエラから包丁を取り上げる。
サリエラは完全に意気消沈し、肩を落として家の中に戻っていった。




