91.魔獣とおっさん―3
とっさに首を動かして、顔面への直撃は避ける。
が、間髪入れずに左の拳の一撃が襲い掛かっていた。
「チッ……!!」
穴の空いた右の翼で体を覆い、防御の態勢を作った。
グルゥは邪魔だとでも言いたげに、問答無用でその翼を掴む。
「背に腹は変えられぬか」
力任せに、右の翼を引き千切ろうとするグルゥ。
だがそれよりも早く、ヴラディオは自らの影で作り出した刃により、右の翼を根元から斬り落としていた。
翼に気を取られている間に、ヴラディオはグルゥの股座からの脱出に成功する。
しかし距離を空けようとした直後、
「ガァッ!!」
何としてでも逃がすまいと、グルゥの放った熱射線が路面を横に薙いだ。
一歩踏み出すのが遅く、熱射線によりヴラディオの左の足首から先が吹き飛ぶ。
「ぐぬゥ!? ……我は王、なのだぞ。それが、こんな屈辱……ッ!!」
誰に話しかけるわけでもなく、ヴラディオは己の窮地に対し怒りの言葉を吐いた。
既に右腕、左足、右翼と、甚大な損傷が発生している。
ドレインを行えば回復は出来るだろうが、相当な量の血が必要だ。
「誰か、我の力となるものは居ないのか……ッ!!」
既に中央広場の市民たちは、残らず氷漬けにされている。
この場で戦闘を行った兵士達も、敵味方問わず同じ状況だ。
救いを求めるヴラディオに対し、ついにグルゥの拳が、背後から直撃しようとしていた。
「駄目、ですっ!!」
だが――その拳は、振り抜かれる直前で止まっていた。
両手を広げたサリエラが、ヴラディオを庇うように、グルゥの前に立ちはだかったのだ。




