91.魔獣とおっさん―2
以前に対面した際の魔獣化は、“魔封じの杖”によって簡単に食い止められるものだった。
所詮はその程度の力しか持たないと、ヴラディオは認識していた。
――が、今のグルゥは、以前とは明らかに格が違う。
“魔神の心臓”を手に入れた以上、そのパワーが上がっていることは予測できていた。
だが、その力はヴラディオの予測の範疇を遥かに超えていたのだ。
「まずい、このままでは……ッ!」
ひとまずは迫り来るグルゥから逃げなくてはならない。
ヴラディオを包む霧が濃くなったかと思うと、その姿は霧散し、影の中へと消えていった。
その様子を見て、グルゥの血走った眼がグルンと下を向く。
「ウゥガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
喉の奥から放たれた炎が、あっという間に足元を覆い路面を溶かしていった。
威力と速さを重視した熱射線とは違い、地面に沿って拡散する炎の海である。
逃げ込んだはずの影が一瞬で消滅し、たまらず、ヴラディオは炎に包まれながら影の中から飛び出した。
「クソッ、クソッ……!! こんな出鱈目が、あってたまるか……ッ!!」
なおも逃げようとするヴラディオだったが、その頭上には、既に魔獣の巨体が迫ってきていた。
その体からは想像もつかないほどの俊敏さで、グルゥは宙を舞い、確かにヴラディオを捉えたのだ。
「ガァッ!!」
グルゥはヴラディオの右足を掴んで、そのまま地面に叩きつける。
翼で身を包むことにより激突の衝撃を和らげるヴラディオだが、続けざま、頭をかち割ろうとするグルゥの剛拳が迫っていた。




