91.魔獣とおっさん―1
それはグルゥにとっても疑問の一つではあった。
ただでさえ制御が出来ない、“熱球”の力を手に入れた状態で、魔獣化を果たしたらどうなるのか?
その答えが、これから始まる。
「…………な、にィ?」
懐疑的な声を上げ、ヴラディオは首を傾げる。
これまで、グルゥの頭を掴んでいたはずの右腕。
その関節から先が、綺麗さっぱり無くなっていたからだ。
「ゥゥゥゥゥウウウウウウウ……」
目の前では、低い唸り声をあげる黒い猛牛が、腕を噛み砕き、咀嚼し、飲み込んでいた。
それが自分の腕であることに――ヴラディオが気付くまで、三秒ほどの間があった。
「何なのだ、コイツは――」
黒き魔獣へと変貌を果たしたグルゥ。
自身よりも巨大な獣になったその姿を見て、ヴラディオはまず距離を取ろうと翼をはためかせ後ろに跳ぶ。
が、コンマ一秒の隙も与えずに、
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
グルゥが吐き出した熱射線が、ヴラディオの右の翼に風穴を開けた。
流れ弾がジルヴァニアの街へと飛んで行き、熱射線の通り道が、一瞬で灰燼へと帰す。
「有り得ぬ、これほどの破壊力を、何故予備動作も無しに放てる……ッ!?」
常識を遥かに超えた、魔獣化したグルゥの力。
それを目の当たりにし、ヴラディオの表情に、始めて焦りの色が浮かんでいた。




