90.禁忌とおっさん―8
「やめてっ!!」
その時だ。
今まで二人の戦いを見ていたサリエラが、追い縋るようにヴラディオの左腕を掴んだ。
「もうやめて下さい、お父様っ……!」
「……どういうつもりだ? サリーメイア」
ヴラディオは振り向くこともせず、横目でギロリとサリエラを一瞥する。
その目には、娘を見る父のものとは思えぬ迫力が込められていた。
「私は、まだ自分の身に何が起こったのか把握出来ていませんが……お父様の目論見通り、覚醒は果たせたのでしょう? それなら、もう、この戦いは不要なはず――」
「馬鹿なことを言うな。戦いを仕掛けてきたのは、この魔人の方だぞ? それに、思わぬ副産物まで手に入ろうとしている……この力、みすみす逃すにはあまりに惜しい」
ヴラディオは、食い入るようにグルゥの熱球を見つめていた。
(駄目、だ)
戦いに敗北したグルゥは、祈るような気持ちでヴラディオの手が止まることを願った。
(熱球に手を出されたら……私は、もう……!!)
「そうだな……この“魔神の心臓”を抜き取って、お前に移植するのはどうだ? それとも、食すことで取り込むことが出来るのか。まあ、その辺りはユグドラシズに知恵を借りることにしよう……。これがあれば、お前は更に強くなることは出来る」
真顔で言い放ったヴラディオに、サリエラの表情がさっと青ざめて曇る。
「させ、ません……」
「なんだ? その目つきは――」
「いくらこの国の“王”と言えど、“お父様”に手を出すことは……私が許しませんっ!!」
それは、はっきりとした――ヴラディオに対する拒絶の意思。
ヴラディオの表情が、これまでにないほどの怒りで歪んだ。




