90.禁忌とおっさん―7
「ぐっ…………やめ……ろっ……」
痛みから逃れるように、身を丸くし、縮こまったグルゥ。
その無様な姿を満足げに見下したヴラディオは、さらに溜飲を下げるように、グルゥの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
「うぐ……!?」
まるで玩具のように、いとも簡単にグルゥの巨体が持ち上がる。
全身の骨が粉々になるまでに痛めつけられたグルゥは、指一本動かすことが出来ず、されるがままだった。
ヴラディオは傷だらけになったグルゥの体を舐め回す様に見る。
そして何より、その目を引いたのが、
「なるほど……これが“魔神の心臓”か。我もこの目で見るのは二回目だ」
グルゥの胸に埋め込まれた、燃える熱球である。
(“魔神の心臓”?)
その呼び名はグルゥも聞いたことがなかった。
そして、ヴラディオにとっては既知の存在でもあるらしい。
「実に見事だ……美しいとさえ言える。本来であれば、サリーメイアも“魔神の心臓”を抱かせるまでに成長させたかったが……まあ、アレは『サキュパイア』として覚醒させたもの……不純な種には、手の届くものではあるまい」
「何を、言ってるんだ……お前、は……」
喋ったグルゥの喉の奥から、ごぼっと熱い血の塊が溢れ出した。
それはヴラディオの手首にかかると、じゅうと肉が焼ける音がした。
「クク……先程よりも、随分と熱くなっているようじゃないか。宿主の危機を察知して、急速に活動を強めたと見える」
「だか、ら……なに、を…………っ!」
「この心臓……是非とも、我が手中に収めたい」
左手で手刀を作ったヴラディオは、その切っ先をグルゥの熱球へと向けた。




