90.禁忌とおっさん―6
「が……う…………」
下半身を氷漬けにされたままのヴァングリフは、倒れることも出来ず、そのまま力無くうな垂れた。
その目からは光が消え、全身の筋肉が弛緩しきったように、ただその場にある肉の木偶となる。
「はははははッ!! この男も、貴様に負けず劣らず実に良い具合をしておるッ!! 漲るぞ、力ッ!!」
ヴラディオの筋肉がみるみるうちに隆起していき、その体格が一回り大きくなったように見えた。
腕や、頬にまで太い血管が脈打ち、猛烈なスピードで血を吸っていることが分かる。
一度、ドレイン攻撃を受けたことがあるグルゥは分かっていた。
ヴラディオに捕まってしまえば最後、全身に力が入らず、ただ為す術もなく命が枯れるのを待つしかないということを。
既に、ヴァングリフは命に関わるような重大な致命傷を受けている。
このままヴラディオのドレイン攻撃を受け続ければ、確実に絶命に至るだろう。
だから、グルゥは動くしかなかった。
無策であろうと、今はヴラディオの攻撃を自分の体で受けるしかない。
「そう来るだろうと、分かっていたわ」
もちろん、ヴラディオもそこまで分かっている上での行動だった。
大きく膨張した翼を広げ、突っ込んできたグルゥにまずは蹴りの一撃を食らわせる。
右腕でガードするグルゥだが、それは防御の意味を成していない。
粉々に粉砕される上腕骨。
さらに衝撃は貫通し、肋骨にまでヒビが入り、グルゥは悲鳴をあげた。
叩きつけられるように地面に倒れたグルゥに、ヴラディオは何度も、何度も、上から拳を叩き込む。
羽虫と人との間で、真っ向勝負が成立するだろうか。
もはらそれは戦いですらなく、圧倒的な力の差による蹂躙だった。




