90.禁忌とおっさん―5
即座に反撃を行いたいグルゥだが、そうはうまくいかない。
獣の口のように牙を持った影が、グルゥの足にしっかり喰らいついて、離さなかった。
「お前をぶっ飛ばすためなら……私はなんだってやるさ……っ!!」
「いいだろう。それでは我も……その本気に応じよう……ッ!!」
拭ったグルゥの血を、ペロリと舌先で舐め取るヴラディオ。
その瞬間、ヴラディオを覆う闇の深さが濃くなって、その輪郭が徐々におぼろげになっていく。
「性懲りもなく、また奇襲を行うつもりか……っ!!」
いつまでも足止めを食らっているわけにはいかない。
グルゥは強引に足に噛み付いた影を引き千切り、ヴラディオに近付いていった。
足の肉を持っていかれようが、関係はない。
神経を集中させ、異変を肌で感じられるよう、全身で警戒を行いながら、次にヴラディオが現れる場所を探る。
だが、それは一瞬の出来事だった。
「がはぁっ!?」
どてっ腹に空く風穴。
ぼたぼたと零れ落ちる血の塊と、そこから生えた屈強な腕を目の当たりにして、グルゥは茫然自失の体で立ち尽くした。
「な……に…………?」
「言ったろう? 本気に応じると。であれば、この状況……使えるものを使わぬ道理はない」
「何をやっているんだ……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヴラディオが突き出した鋭い手刀は、ヴァングリフの頑強な肉体を、背中から真っ直ぐに突き刺していた。




