9.ビンタとおっさん―8
「あっ、そうだ!」
「ひゃいっ!?」
ドキドキしていたところに、急にサリエラが大きな声を出したので、グルゥは発狂した猫のような声を出してしまった。
「……何ですか? 今の声」
「こ、声を出すのも久しぶりなんだ。しょうがないだろう」
グルゥの言い訳にサリエラは訝しげな視線を送っていたが、まあいいか、とすぐに切り替えたようだ。
「せっかくですから、お父様とお母様が戻られるまで、仕事の手伝いをしてくれませんか?」
「仕事? もちろん、君には私の世話をしてもらった恩もあるからな。喜んでやらせてもらうよ」
「せ、世話だなんて……そこまでハレンチなことは、していませんからねっ!」
そう言って、キャーッと顔を伏せるサリエラ。
逆になんかされたのか? とグルゥは猛烈に不安になってしまう。
「う、うおっほん。とにかく、仕事の内容を教えてくれ」
「はい。ニサードの名産品は“トリドリイカ”なのはご存知ですか? 同じ種類のイカなのに、個体によって墨の色が違う、変わったイカなのですよ」
へぇ、と物珍しさからグルゥは興味津々だ。
「トリドリイカの干物は珍味とされていて、目で楽しみ、味を楽しむ、高級品として市場に出回りますの。ですから、私はその干物作りを任されているのです」
「ふむ、要はイカを捌いて干せばいいんだな? それなら、私にも出来そうじゃないか」
「は、初めての共同作業、ですね……」
そもそも出会ったのも今日が初めてみたいなものだろうと、グルゥは心の中でしっかりと突っ込んだ。




