90.禁忌とおっさん―2
――パチ、パチ、パチ。
まばらな拍手が響く。
そんな芝居がかった行動をするのは、もちろんこの場には一人しかいない。
「これは驚いた……まさか、貴様の方からサリーメイアを“覚醒”に導いてくれるとはな」
「何が“覚醒”だ」
間髪入れずに、グルゥの静かな怒声が響いた。
「お前が犯したのは……“禁忌”だ。本来であれば、生まれるはずのないモノ。それをお前は、禁断の交配により生み出した。そうなんだろう」
グルゥは問いかけたが、その答えは、サリエラの変異した姿を見れば明らかだ。
鋭い犬歯は『ヴァンパイア』の種族特徴。
そして尖り耳は、『アスモデウス』の種族特徴だからだ。
「『鬼』と『サタン』が決して相容れないように、『アスモデウス』は『ヴァンパイア』の形質反転から生まれた種族のはずだ。表と裏、陰と陽、同じ血脈を持つ二つの種族からは、決して子孫は生まれないはずなのだ」
「はは……なんだ、そこまで分かっていたのではないかッ! そうだとも、サリーメイアは我が『アスモデウス』を犯し生ませた子、我が作りし、最高傑作なのだよッ!!」
サリエラの出自の疑惑――それは、グルゥがヌエツトに旅立つ直前に、ニフラから聞かされていた情報だった。
本来であれば、相反する種族の間に子は出来ず、或いは奇種族と成りて、その命は長く持たないはずなのだ。
だが、強大な魔力を持つ者同士が交わったせいなのか――その運命に打ち勝つものが、生まれてしまった。
「元々、我も考えあぐねていたのだ。禁忌の交配には成功したが、生まれた子は何の特徴も持たない、一見すれば普通の人間なのだからな。どうすればその潜在的な力が覚醒するのか……その答えが、貴様だった」
ヴラディオが指差したのは、他でもないグルゥである。




