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89.王女とおっさん―10

 ガリッ、と力強く自身の舌を噛み切ったグルゥ。

 溢れ出る血と、唾液の混ざった液体を、サリエラに口移しで飲ませていく。


「…………ほう?」


 ヴラディオの口元が、愉悦に満ち歪んでいた。


「死ぬな、サリエラ――」


 グルゥは必死に、サリエラに己の体液を流し込んだ。

 舌を深く挿し、少しでもサリエラの喉の奥に血が届くように、祈るような気持ちで深く口づけを交わしていく。


 それが、淫らだとか、いけないことだとは思わなかった。

 娘を助けるための行動を、躊躇する父親が――何処にいるだろうか。


 グルゥはサリエラの胸元をまさぐると、二つの膨らみの間に手を置いた。

 弱々しかった心臓の拍動が、僅かながらに強さを取り戻している。


 いける、と――グルゥはサリエラの舌を吸い、血と唾液を絡め、深く深く、交情を高めるような接吻を行った。


「あっ、ぁあ……っ!?」


 サリエラの口から、甘やかな吐息が漏れていた。

 機を逃すわけにはいかないと、グルゥはさらにサリエラの口内を責め立てる。


 頬を上気させたサリエラは――逃れられない快感の波に、ついに全身を仰け反らせ嬌声をあげた。


「だ、駄目ですお父様っ、それ以上は……ぁぁぁああああああああああああっ!!」


 その瞬間、サリエラの全身が蒼い光に包まれる。

 放たれた冷気は強烈なもので、まるで全身をハンマーでぶたれたような衝撃に、グルゥの体はいとも簡単に吹き飛んでいた。


「ぁ、ぁああ……私……私、は、いったい…………っ!?」


 蒼い光が収まった時。

 サリエラは、鋭い犬歯と先の尖った耳を持った、“人ならざるもの”の姿になっていた。

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