89.王女とおっさん―6
氷剣を振るうサリエラ。
その軌道はそのまま刃となり、グルゥは手のひらから生み出す熱で撃ち落とそうとした。
だが、
「くっ……!」
氷刃は溶けることなく、そのままグルゥの肩を斬り裂いていく。
今までの相手とは圧倒的に違う、その魔力の強さ。
(もしくは……私の力が弱まっているのか……?)
熱球も、極寒の中ではその苛烈さを失っているようだった。
氷を滑るようにしてあっという間に距離を詰めたサリエラは、その氷剣でグルゥの脇腹を斬り裂いた。
「ぐうっ……!!」
お返しに、サリエラを捕まえようと腕を伸ばしたグルゥだが、氷上のサリエラは機敏な動きで距離を取った。
そして、去り際に三本の氷柱を、グルゥの太ももに撃ち込んで行く。
脚にはしる激痛に、グルゥは呻いて膝をついた。
「はははははッ!! どうした、我が作品に、手も足も出ないじゃないかッ!!」
ヴラディオの哄笑が響く。
グルゥは体から血を流しながら、じっと屈辱に耐えていた。
「それとも……“手を出すつもり”がないんじゃあないか? なぁ」
ヴラディオの言葉に、グルゥは僅かに身じろぎをした。
(これは、サリエラの本心ではない。サリエラを傷つけるわけには、いかない)
ヴラディオの言葉は的を射ていた。
グルゥは初めから、サリエラと戦うつもりはなかったのだ。




