89.王女とおっさん―3
「少し……誤解があったようだな」
そう言って、ヴラディオはようやく王の座から立ち上がった。
そして、正面に立つサリエラの肩にポンと手を乗せる。
「我とて、子の幸せを思わぬ時はなかったぞ」
「…………あァ?」
「圧倒的なまでの力。それこそが、ジルヴァニアの頂点に君臨するものとして、心穏やかに生きるために必要なものなのだ」
ヴラディオの言葉を聞いて、ヴァングリフの眉間に皺が寄り、こめかみには青筋が浮かんだ。
「ぐだぐだうるせぇ、御託を並べてんじゃあねェぞッ!! お前ら、一斉射撃だッ!! この糞を蜂の巣にしろッ!!」
ヴァングリフの命令で、物陰から、屋根の上から、いたるところから矢が放たれた。
しかもそれらは、ただの矢ではない。
闇の魔力が込められた、可動式の誘導弾である。
サリエラという、傷つけることが出来ない“盾”を用意されることは十分に想定できていた。
そこでヴァングリフは、予め射手と魔導師がセットで行動するよう、采配を行っていたのである。
ありったけの漆黒の矢が降り注ぐ中で――ヴラディオは絶望的な表情を浮かべていた。
「なんという……ことだ」
「くたばりやがれ、糞野郎ッ!!」
「こんな子供騙しのような手で、我に刃向かうつもりだったとは」
次に、ヴラディオがトンとサリエラの背中を押した瞬間。
宙に浮かぶ弓矢は、一つ残らず氷漬けにされ、地上に落下していった。




