88.炎と水とおっさん―9
――アマツの武士達を率いて、シュテンはジルヴァニア城の中を先行していた。
本来ならば、多数の兵との市街戦が予想されたはずだった。
だが、石造りの街は不自然なほどに静かで、人っ子一人姿が見えやしない。
「嫌な予感がするだ……っ」
ゾッとするような静寂の中を、鬼達は駆けて行く。
目指すはただ一つ、ジルヴァニア城。
そこに併設されている、式典の際などに使われる中央広場だった。
「これはっ……!?」
だが、目的地に近付くにつれ、“異変”が起きていることにシュテンは気が付いていく。
空気は肌寒くなり、荒く吐いた息が白く形となっている。
石畳は霜に覆われ、気を抜けば足を滑られて転びそうな、そんな足場になっていた。
「まさか……いや、そんな……こんな、ことが…………っ!?」
そして辿り着いた中央広場。
そこは一面の銀世界であり、そして――
「う、嘘だぁ……!? こんな、こんなことが許されるわけ……っ!!」
そこに集まっていた無数の市民達は、一人残らず氷漬けにされ、見事な氷像と化していた。
呆然と立ち尽くしたシュテンの前に、蒼く透き通ったドレスを身に纏った少女が“ふわふわと降りてくる”。
「まずい、おめぇら、逃げろ――」
シュテンが振り返って声を張るよりも早く。
恍惚とした表情で少女が指を鳴らした瞬間、絶対零度の寒波が通りを走り抜け、鬼達は一人残らず氷漬けにされていた。




