88.炎と水とおっさん―8
ネプティア姫の治癒によって、ネアロが、ヴァングリフがヌエツトに抱いていた敵対心が収まったかは分からない。
だが、今こうしてヴァングリフと共同戦線を張ることが出来たのは、グルゥにとってどこか救われたような思いがあった。
「なんだよ、人の顔をじーっと見て」
「いや、王子も大きくなられたと……そう思っただけだ」
「はぁ!? 確かに、グルゥおじさんとは小さい頃からの付き合いだけど……俺ももういい年なんだぜ、子供扱いはやめてくれよ」
つい昔のことを思い返し言ってしまったが、ヴァングリフは照れているものの、どこかまんざらでもなさそうな顔をしていた。
どこかで壊れていた関係性が、ようやく修復されていく――そんな空気が、二人の間にはあった。
「つか、まだ城にも入ってねぇのにすげー傷だな。待ってろグルゥおじさん、すぐにイルスウォードの治療班を呼んでくる」
「いや、そんな必要はない……十分な熱量が得られれば、傷はすぐに塞がる。それよりも今は、早く、サリエラの下に向かわなければ」
ヴァングリフの忠告も聞かずに、グルゥは再び歩き出そうとした。
「だから、無茶するなって!」
ヴァングリフはすぐにグルゥを止めようとしたが、
「…………ん?」
差し出した手の上に、小さな、白い粒が落ちてきたのを見て、ヴァングリフは動きを止めた。
「これは…………雪?」
見上げた空は快晴だ。
それなのに、どこからともなく白い雪が降り始めていたのだ。
「遅かった、か……!?」
焦りの言葉を零すグルゥ。
季節はずれの雪は、グルゥの戦いがまだ始まったばかりだということを暗に告げていた。




