88.炎と水とおっさん―7
腕組みをしたヴァングリフは、大きなため息をつきながら、去り行く二人の騎士の背中を見つめていた。
「いいのか? みすみす逃がしちまって」
「元から、私の目的はサリエラとノニムの救出だ。無駄な争いを、するつもりはない」
「強くなるぜ、あの騎士達。…………なーんて、おっさんくさいことを言ってみたりして」
くだけた表情で振り返ったヴァングリフに、グルゥはホッとするような安心感を覚えていた。
「その様子なら……大丈夫だったんだな、ネプティア姫は」
「ああ。グルゥおじさんが持ってきてくれた霊薬のおかげだ。結晶病の進行は止まって、徐々に回復の兆しを見せてきている。……だけど、だから俺は言ったんだぞ!? 少しくらい、自分の分を残して持っていけって!」
既に全身傷だらけ。
夥しい量の血を流しているグルゥに、ヴァングリフは呆れた様子で言った。
「だが、もしその分で病気が治らなかったらどうするんだ」
「おじさんはさ……ちょっとは自分の体を大事にするってことを覚えたらどうなんだ? まあ……そんなおじさんだからこそ、ヌエツトの新しい王様には相応しいのかもしれないな」
「からかうな。私はまだ、王の代理という立場にしか過ぎない。この戦いが終われば、すぐに元の一市民に戻るつもりだ」
デルガドスは、決してグルゥを新たな王には認めなかった。
直接戦っていないのだから、まだ自分より強いと証明できたわけでない、と。
だが現状、手負いのデルガドスと戦ったとしても、公平な戦いと言えないのもまた事実である。
そのためグルゥには、あくまでも動けないデルガドスの代わりとして、王の代理として一部の権限を与えられることになったのだ。
無論、グルゥの目的はヌエツトを支配ことでも、政治を行うこともでない。
ただ一つ、霊薬をコクアへ持ち出す許可を得るために、その権限を得たのだ。




