88.炎と水とおっさん―5
三方からジルヴァニア城に攻め入る、一斉攻撃。
その両翼は、ヴァングリフ率いるコクアの軍と、シュテンが率いるアマツの武士達である。
グルゥはたった一人で、陽動として中央突破を行うことを任された――いや、自ら志願したのだ。
(今の私では、まだ熱球の力は制御出来ない。味方に余計な手間を掛けないためにも、これが最適だったのだ)
そして今、先陣を切ったグルゥに遅れて、ようやく両軍がジルヴァニア城まで辿り着いたのである。
「だが……なんで王子が、こんなところにまで来たんだ」
「なんでって、グルゥおじさんのことが心配だったからに決まってるだろ」
「そんな心配、無用だ…………と言い切れない状況なのが私の格好悪いところだな」
二人のやり取りを見て、エルゼシュトはフラムリッターを構えたまま呆気に取られていた。
「魔人の増援、だと……ッ!?」
「んで、お前は俺とやる気なのか? あァ? 若い騎士さんよぉ。悪いが、グルゥおじさんは俺の嫁さんの“命の恩人”だ。戦うつもりってんなら……俺はグルゥおじさんほど、優しくはないぜ?」
啖呵を切るヴァングリフの圧力に押され、エルゼシュトはじりじりと後退する。
若いながらにも積み重ねてきた戦いの経験が、“勝ち目はない”という事実をエルゼシュトに告げていた。
「…………ァハッ」
圧倒的に不利な状況の中――不気味な笑い声をあげたのは、リーヴスだった。




