88.炎と水とおっさん―3
膝をついたまま天を仰ぐグルゥ。
虚ろなその目には――まだ光は消えていなかった。
「酸素など……あと一呼吸分あれば、いい」
大きく息を吸い込む。
胸の熱球が一際強く輝き、溜め込んだ熱を、グルゥはいっぺんに口から放射してみせた。
「なッ!?」
何十本もの水の槍がグルゥの体を貫いたが、それでも倒れないグルゥは、吐き出した熱射線で水のドームを叩き切る。
そしてその高密度の一撃は、リーヴスの右手首も吹き飛ばしていた。
「がああああああああああああああああああああああああああああッ!?」
崩れゆくドームの上から転落するリーヴス。
ワンテンポ遅れて、その側らに無造作に右手が転がった。
「リーヴスッ!!」
その惨状を見て、エルゼシュトは居てもたっても居られずにリーヴスの下に駆け寄る。
リーヴスは血が噴き出す右手を押さえながら、怨嗟の目でグルゥを睨みつけていた。
「貴様……ッ!! こんな、仕打ちを、よくも……!! 私に……ッ!!」
「大人しく隠れ切っていれば良かったものを。策士策に溺れるとはこのことだな……水使いだけに」
うまいことを言った、とドヤ顔で語るグルゥ。
痛みに喚くリーヴスは手首を押さえながら、目の端からポロポロと涙を零していた。
「断面は綺麗に切断した。今ならまだ、治療をすれば腕がくっつくかもしれないぞ。早く退却をするんだな」
グルゥの言葉に、エルゼシュトは舌打ちをしながらも、右手を拾ってからリーヴスを担ぎ上げようとした。
だが、その手を払い除けたのは、リーヴス自身だ。
「バカヤロウ……ッ!! お前のやるべきことは、そうじゃないだろ……ッ!! 今、ヤツが衰弱しているのは、紛れもない事実なんだぞぉ……ッ!!」
ぜぇぜぇと荒く息を吐き、顔面は蒼白になりながらも、リーヴスは残っている左手で、グルゥの方を指差していた。




