9.ビンタとおっさん―6
右の頬に真っ赤なモミジをつけたグルゥは、憮然とした表情で逃げ出したサリエラの後を追った。
すると、家を出たところで視界に広がったのは――
「なんと、見事な……!」
太陽の光を跳ね返して輝く白い砂浜と、どこまでも透き通ったエメラルドグリーンの海。
砂浜の左右には濃い緑の森が生い茂り、コントラストにグルゥは眩しそうに目を細めた。
本当に天国に来たようだと、こんな状況下にも関わらず、グルゥは感動を覚えていた。
「ぐすん」
サリエラは軒先で三角座りをし、涙ぐんでいる。
「私……生まれて初めて男の人に押し倒されてしまいました。責任を取ってくれますか?」
重いわっ!
グルゥは心の中で絶叫をしていた。
「もちろん、冗談ですよ……半分。さっきの話の続きですが、テュルグナに向かうのであれば、お父様とお母様の帰りを待った方が良いと思います。きっと、お人好しの二人のことでしょうから、あなたも船に乗せてくれるでしょう」
半分本気なのか……? と若干薄ら寒いものを感じつつも、グルゥはそうか、と相槌を打つ。
「ありがとう。そしてすまなかったな、さっきはあんな状態になって」
自分が謝る必要があるのか、もはや何が何だか分からなかったが、僅かながらにサリエラの純情を傷つけた可能性もあるので、一応の程度で謝っておくグルゥ。
「いえ、こちらこそつい手を出してしまって……申し訳なかったです。この村は今、人手不足で困っておりますから、良かったら私が責任を取りましょうか?」
「重いわっ!!」
グルゥの心の叫びはつい外に漏れ出てしまっていた。




