87.五彩の騎士・蒼とおっさん―8
「あなたみたいな野蛮な種族を相手に真っ向から戦おうなんて、思うはずがないでしょう?」
腰の辺りまで地面に沈んだグルゥを見て、満足げに微笑むリーヴス。
だが、その眼鏡の奥の瞳は、一切笑っていなかった。
「要は、接近されなければいいだけの話。ですが、それではあなたに致命傷を与えることは出来ないので」
リーヴスは、話しながらゆっくりと後退しグルゥと距離を取った。
目と鼻の先まで近付いたのに、再び間合いを取られ、グルゥは悔しさで歯軋りをする。
「その役目は、他人に譲ることにしました」
霧の中に隠れていくリーヴス。
代わりに、白い幕を切り裂くように現れたのは、エルゼシュトだった。
「喰らえッ!! 緋剣“フラムリッター”ッ!!」
振り下ろされる紅色の刀身。
頭を守るためグルゥは両腕をクロスして斬撃を受け止めたが、そのダメージは今までのなまくらとは比べ物にならない。
「ぐあああああああああああああああああああッ!?」
そう、ただの鉄製の剣であれば、自身の熱で溶かすことでダメージを最小限に抑えることが出来た。
だが、エルゼシュトが持つ“フラムリッター”は炎の魔力を宿した魔剣。
それそのものに、炎の耐性があるのだ。
「やはり、俺の剣であれば斬ることが出来るッ……!! 行くぜ、このまま――」
「下がってください、エルゼシュト!! 既にそいつは、反撃を狙っているっ!!」
どろどろに溶けた地面が、マグマのように赤みを帯び融解していた。
引き込まれそうになったところを、エルゼシュトはとっさにバックステップで難を逃れる。
蟻地獄から這い上がるように、グルゥは沸騰する地面の中から立ち上がった。
「なるほど、これは……相性の悪い相手のようだ」
ぶらさげた両腕からは、真っ赤な血が止まることなく迸っていた。




