87.五彩の騎士・蒼とおっさん―7
「――だから、虫唾がはしるんですよ」
相対したリーヴスが、その眼鏡の奥から、異様な殺気を放っていることにグルゥは気が付いた。
「親子だなんて……くだらない関係性を掲げて、そのためには力を行使することが正当だと主張する……あなたのような、正義面をしたヤツを見ているとね……ッ!!」
今までの雑兵とは格が違うと、グルゥは瞬間的に理解した。
右手をかざしたリーヴスは、小手調べだと言わんばかりに回転する水の刃を撃ちまくる。
大した威力ではない。
そう判断したグルゥは、水の刃に構うことなく真っ直ぐ進んでいく。
「おい、全然効いてないぞッ!?」
エルゼシュトの慌てふためく声が聞こえた。
だが、リーヴスはそんな注意に構うことなく、水の刃を撃ち続ける。
「全然、効いてない……? だから、いいんじゃないですか」
水の刃は、全てグルゥに着弾する前に熱で気化してしまっていた。
が、それは逆に水蒸気の幕となり、辺り一面が白い霧に包まれる。
それでも、躊躇することなどない。
グルゥはただ真正面に立ち尽くすリーヴスに対し、全体重を乗せた拳を振るおうとしたが――
「なッ!?」
突然、ガクンと視界が下降した。
あとほんの数センチ、もう少しでリーヴスに対し拳が届くはずだったのに、その一撃は空を掠め不発に終わる。
「泥だとッ!?」
霧により見えなくなっていたが、リーヴスの足元は、既に水を吸いぬかるんだ地面へと変化していたのだ。
そしてその地面は、当然グルゥの体重に耐えられるはずがない。




