87.五彩の騎士・蒼とおっさん―6
「あ……ああ…………っ!!」
守るべきはずだったものを失い、戦う気力を失った父は、剣を取り落としてその場に膝をつく。
戦いは終わった。
そのはずだった。
だが、
「貴様、王に剣を向けて……無事で帰れると思っているのではあるまいな」
激昂したヴラディオは、決して父を許そうとしなかった。
戦意を喪失した父を、ヴラディオは何度も殴りつけ、蹴り飛ばし、嗜虐の限りを尽くした。
首を絞められ、壁に押さえつけられた父は、虚ろな目で許しを乞う。
「たの……む……彼女を、彼女を返して、くれ……」
「気が触れたか。貴様の女は、貴様が事を起こしたせいで無駄死にしたのだ。おとなしく、家で毛布に包まり震えて寝ていれば良かったものを」
父はぐちゃぐちゃになった指で、一連の惨劇を目の当たりにしていたリーヴスを指差した。
「あの、子は……彼女よりも優れた魔導の才能を持っているんだ。頼む、あの子をやるから……彼女、を……」
息も絶え絶えに紡がれた、父の掠れた声の言葉。
その言葉は、リーヴスの頭の奥にこびり付き、それを思い出さないように、必死で忘れようとしていたのだ。
「ハハハッ。女のために子を売るか、愚かな人間よ。だ、そうだが……お前はどうしたいんだ? ん?」
背中越しに振り返ったヴラディオは、憐れむような、嘲るような、複雑な目をしていた。
“捨てられた”。
そう理解したリーヴスが答えを見つけ出すまで、そう時間はかからなかった。
「…………いらない、よ。ぼくにはもう、パパもママも……いらないから…………っ!」




