87.五彩の騎士・蒼とおっさん―5
激しい雨の夜だった。
玉座の間の隅に座り込むリーヴスの前には、母とヴラディオの姿があった。
ヴラディオは、優しい手つきで母の衣類のボタンを外していく。
(なにを、しているのだろう)
裸になった母は、上気した顔でヴラディオを見上げている。
リーヴスはその意味も分からないまま、ただただ、目の前で行われる奇妙なやり取りを眺めていた。
だが、その時だ。
「待てッ!!」
玉座の間の扉を蹴り開け、一人の男が入ってくる。
剣と鎧で武装したその男は、間違いない、リーヴスの父である。
「彼女に手を出すな……! いくら王でも、看過することは出来ん!!」
剣を構え、ヴラディオに迫る父。
怯えた表情の母を守るように、ヴラディオは一歩前に進み出た。
「合意の上のことだ。我が息子には、魔導の才能が無い。そのために、一刻も早く強い魔力を持つ者と子を成すことが必要なのだ」
「そんなこと……! あまりにも、非人道的だッ!!」
「フ……ヴァンパイア相手に人の道を問うか、愚かな人間よ」
始まったのは、王と父の一対一の戦いだった。
目まぐるしい剣技の応酬に、リーヴスはただ固唾を飲んで見守ることしか出来なかったが――
「死ねィ!!」
父に突き刺さるはずだった、そのトドメの爪撃は、とっさに身を投げ出した母の胸に突き刺さっていた。
「そんな……どうして……っ!!」
絶望に歪む父の表情。
ヴラディオは驚いた様子で、真っ赤に塗れた自分の右腕を眺めていた。




