87.五彩の騎士・蒼とおっさん―4
ヴラディオ王に会わなければならない。
直接、この目で見て、“それ”を確かめなければならない。
五彩の騎士の入隊試験を受けたリーヴスは、剣技は凡人以下の成績だったものの、魔導の分野については圧倒的な成績を収め、ついに合格することとなった。
その回の入隊志望者で合格になったのは、リーヴスとエルゼシュトの二人だけだ。
エルゼシュトは自分に黙って試験を受け、その上で合格したリーヴスを見て、ケッとどこか納得のいかない表情を浮かべていた。
そして、晴れて入隊となった二人は、騎士としてジルヴァニア城に赴くことになる。
そこで二人は、ヴラディオより直接剣を賜る、戴剣式という式に参加していた。
ヴラディオの前で、恭しく膝をつくリーヴス。
ついに対面したヴラディオだが――その時には、リーヴスは署名を見た時に感じた衝撃のようなものを忘れかけていた。
(実際に目の当たりにしても、何も感じることはない。あの時の感覚は、なんだったのだろうか。私は、いったい何を)
ぼんやりと考えている最中に、ヴラディオは一本の剣をリーヴスに渡す。
その時だ、ヴラディオが、他の誰にも聞こえないように小さな声で囁いたのは。
「久しいな、水使いの少年よ。これは……お前の父が遺した剣であるぞ」
(久しい……? 父…………?)
確かに、両親は元々騎士だとは聞いていた。
だが、まさか既にヴラディオと面識があったとは。
そしてそれを、王が覚えているなんて――
「いや……そうだ…………」
覚えている?
――違う、忘れていたのは、忘れようとしていたのは自分の方だ。
「私、は…………ああ、あああああ…………っ!!」
振り返ったヴラディオの背中を見た瞬間。
込み上げるのは、圧倒的な殺意と絶望。
(そうだ、だから“ぼく”は忘れようとして――)




