87.五彩の騎士・蒼とおっさん―3
それからエルゼシュトは、事あるごとにリーヴスのいる孤児院を訪れた。
エルゼシュトは、リーヴスに色々なことを話した。
自身が由緒正しいルーベルム家の生まれであること。
国王は魔法を使えるものを重用しており、そのために剣技だけでなく魔導の勉強もしているということ。
そして――自分より魔法を使いこなせる奴は初めて見たと、リーヴスに一目置いていること。
「なぁ。いつか俺と一緒に、この国を守る騎士にならないか」
成長した二人は、いつしかそんな話をするようになっていた。
それは二人が出会ってから十年後――十五歳を迎えた、春の日の出来事である。
「騎士? 私が? ……そんなものに、興味はないですよ。私の両親は死んだのです。国に忠誠を誓うという、不合理な選択の果てにね」
その頃のリーヴスの興味は、もっぱら魔導のことだけである。
“国”なんてものに興味はないし、そのために働く騎士達は愚の極みだとすら思っていた。
「だけど、騎士になれば給金もいっぱいもらえるし、ある程度の地位の確保は約束されるぜ? 孤児院に恩返ししたくないのか?」
「そのために魔導研究の自由を失うのであれば、本末転倒です。私は……この国で一番の魔導士になりたいのですよ」
「ふーん……それなら、この話はもっとお前に向いてると思ったけどな。今度国王は、“五彩の騎士”っつー魔導に精通した騎士隊の創設をしようとしてるらしいんだ。俺はもちろんそれに志願するつもりだし、もしも成れれば、最先端の設備で魔導の研究も出来るんだぜ? そうすれば、俺がお前を追い抜かす日もあっという間に来るっつーの」
エルゼシュトは話すだけ話して、リーヴスにその気がないのを見ると、募集のビラだけ置いて去っていった。
初めは興味がなかったリーヴスだったが、
「…………っ!?」
そこに載っていた、最後の署名――ヴラディオ王の名を見た瞬間に、電流が走ったような感覚がした。
「知っている……私、いや、ぼく、は…………?」
その焦燥感は、リーヴスを行動に移すのには十分すぎるほどの原動力だった。




