87.五彩の騎士・蒼とおっさん―2
「な、なんだよお前は」
「お前、じゃねぇ。エルゼシュトだ。俺と同じくらいで魔法を使ってるやつなんて珍しいからな。しばらくの間見物させてもらったぜ」
いけ好かない奴だと――リーヴスはエルゼシュトに出会った時の印象を、はっきりと覚えている。
「魔法――べ、別にぼくは魔法なんて」
理由は分からないが、それを他人に知られてはいけないような気がしていた。
が、エルゼシュトはニヤッと笑うと、木の上から右腕を伸ばす。
そこから放たれた小さな炎が、リーヴスの足元、水で濡れた地面を乾かした。
「俺だって、それくらい使えるんだぜ」
対抗心からなのか、そう言ってエルゼシュトは魔法を見せ付けた後、木の上から飛び降りる。
まさかこんな奴が魔法を使えるなんてと、リーヴスは自尊心を酷く傷つけられたような気がした。
だが、
「ぐえっ!?」
飛び降りた瞬間、木の枝にマントが引っかかって宙吊りになるエルゼシュト。
「ぎゃああ!? なんだこれどうなってるんだ!? しぬしぬ、俺を助けろ!!」
「…………なんだ、やっぱりバカか」
エルゼシュトを放置して、リーヴスは孤児院の中に戻ろうとした。
が、背後からはぎゃーぎゃーと喚くエルゼシュトの声が聞こえる。
「おい!! お前の魔法のこと、他人に言ってもいいのか!?」
「……はぁ。これだから、バカの相手は嫌なんだ」
振り向き様――リーヴスは今までの魔法よりも格段に出力を上げた、水の刃を手から飛ばした。
マントを切断されたエルゼシュトは、頭から地面に落ちて、唖然とする。
「な、なんだよ……そんな技隠し持ってたのか……!?」
これから腐れ縁になる二人の、好敵手としての邂逅だった。




