86.無双とおっさん―7
「そうだ…………それでいい」
大きく息を吐いたグルゥの口から、小さな炎が吐き出された。
いよいよ、ジルヴァニアの城門に辿り着くまで二十メートルほどの距離まで来ていた。
この門の向こうで、サリエラが待っている。
囚われのノニムを、ようやく救い出すことが出来る。
その胸の高揚は――“熱球”が生み出す“憤怒”と混ざり合い、限りない破壊の衝動をグルゥにもたらしていた。
だが、しかし。
「やれやれ……これは、一から兵達を鍛え直してやらないといかんな」
「むしろ褒めるべきでは? 私達が到着するまで、持ち堪えることが出来たんですからね」
城門の中から軽口を叩きながら歩いてきた二人の男。
エルゼシュトとリーヴス――颯爽と現れた『五彩の騎士』の二人を目の当たりにして、絶望感に包まれていた前線に一瞬で活気が戻った。
「エルゼシュト様っ!! ジルヴァニアが誇る最強の“剣”が……来て下さった!」
「リーヴス様の魔法が破られるところなど、見たことがない! きっとあの化け物も、リーヴス様なら倒してくれるはず……!」
たちまち上がった歓声に、手を挙げて応えるエルゼシュト。
「そういうパフォーマンスはいいんですよ」
「馬鹿者。兵達の士気を高めるのも、我らの立派な役目だぞ」
「この状況で、有象無象が何の役に立つんですか……っと。いいですか? ここは私から行きます。どうもあの魔人相手には、私の力の方が相性が良いようだ」
そう言って、人差し指で眼鏡を持ち上げるリーヴス。
相対したグルゥの口元は、破壊の喜びに満ちて歪んでいるように見えた。




