86.無双とおっさん―5
何があったのかは覚えていない。
ただ目覚めた時には、巨人の膝の上で寝かされていて、口と鼻、両方からマグマのような液体を注ぎ込まれていた。
あまりの苦しさに、むせ返って起き上がるグルゥ。
「おい、霊薬を……無駄にするな」
頭の上で巨人の声が響いて、グルゥはその振動で目眩がするのを覚えた。
が、巨人の姿を改めて目の当たりにして、グルゥは驚愕する。
「その腕とその脚……いったい、何が!?」
巨人は片腕と片脚を失い、満身創痍の状態だったのだ。
さらによく見れば、周囲には沸騰するマグマが流れていて、火山が噴火した後ということが分かる。
「お前がやったのだろうが。痴れ者が」
巨人は呆れたように言ったが、全く身に覚えがないグルゥは、ただただ唖然とするしかなかった。
「逆の発想だ。『サタン』の力を器に封じ込めるために、お前の体を再生させるしかなかった」
「器……再生……?」
「そのために、大量の霊薬を飲ませた。恐らく、良い影響ばかりではないだろう。それに、その胸の熱球は、『サタン』の力の発現が限りなく進んだことを示している」
巨人に言われて、グルゥは始めて自分の身に起きた異変に気が付いたのだった。
「力に呑まれるな、矮小な魔人よ。もしもその時が来れば、お前は二度と、その姿に戻れなくなるだろう。最悪の場合は……自分で首でも刎ねて去ね。それが、世界の為だ」
巨人は全てを語らなかったが、その力の本質は、グルゥ自身が一番よく分かっていた。
(これが真の……『サタン』の力)
何故、自分にこんな力が眠っていたのか。
その理由は分からなかったが、今この時だけは、力の存在に感謝をしていた。




