86.無双とおっさん―4
玩具のように部下の兵士達が吹き飛んで言ったのを見て、小隊長は驚愕していた。
「な、なんだあの力……化け物か……っ!?」
腕を振り払った後の平野は、熱波によって焼け焦げていた。
直撃を食らった兵達が着ていた金属鎧も、見るも無残に融解している。
正面に見据えた魔人の姿は、立ち上る熱気を身に纏い、悪魔そのものであるように見えた。
「ああ、そうだ……化け物だ。悪いことは言わない、早く部下を連れて、私の視界から消え失せろ」
グルゥはそう言うと、ギロリと周囲に居る兵達に睨みを利かせた。
(くそっ、このままでは)
我慢をしようとしても、つい汚い言葉が口から出てしまう。
胸の熱球が狂ったように熱くなっている。
放たれた熱気で自然とマントが浮かび上がり、黒い地肌が露わになるが、それでもまだ排熱が追いつかない。
(ジルヴァニア城に辿り着くまでに……精神が持たない)
剣で付けられた傷は熱によって塞がり、沸騰する血液により、既に回復まで完了していた。
圧倒的なまでの『憤怒』の力。
グルゥは新たに手にしたこの力を用いて、たった一人でジルヴァニア城に乗り込もうとしていたのだ。
(だがこれは、黒き炎を力ずくでコントロールしているようなものだ。一歩間違えれば、全てを灰燼に帰す諸刃の剣になる。こんなところで、こんな奴らを、相手にしている場合ではないのだ)
だが、グルゥが兵士を倒したせいで、既に周囲から無数の増援が駆けつけようとしていた。
それを目の当たりにした途端に血が騒ぐ――全てを破壊してしまえ、と。
(駄目、だ。巨人の言葉を思い出せ……)
グルゥの記憶は、巨人によって命を奪われた、その直後のことに遡る。




