86.無双とおっさん―3
「やったッ! これならば効く!」
「重みを生かして叩き斬るんだッ!」
右腕の自由を剣に持っていかれ、グルゥの重たい足取りが止まった。
その隙をつき、他の兵達も次々とグルゥに斬りかかる。
鋭い突きが脇腹を貫き、太ももにも重い斬撃を受けた。
「よしッ、このまま討ち取るぞッ」
威勢よく後方から声を荒げた小隊長は――そこで違和感に気が付いた。
圧倒的にこちらが有利な状況。
それなのに、そのはずなのに。
「なんだこの……威圧感は……っ!!」
その正体はすぐに判明した。
本来であれば、両手剣の重みによりとっくに斬り落としているはずの魔人の四肢。
だが、誰もその剣を振り抜くことが出来ず、魔人に剣を突き刺したまま唸っている。
「……ああ、どうせなら、全員まとめての方が早いんだがな」
グルゥが呟いた瞬間、そのシルエットが陽炎のように揺らぐのが見えた。
「全員、剣を捨ててそいつから離れるんだ――」
その指示が、言い終わるよりも早く。
グルゥの全身から放出された熱が、突き刺さっていた鋼の剣を一瞬で融解させ溶かしていく。
「なにっ!?」
「邪魔をするんじゃあ……ないッ!!」
グルゥに立ち向かっていた兵達は、前のめりに剣を握っていたため反応が遅れてしまった。
右腕を大きく広げ、真横に大きく振り払うグルゥ。
たったその一振りだけで、三人の兵達はまるで大木に薙ぎ倒されるように、遥か後方へと吹き飛ばされていく。




