86.無双とおっさん―2
「いたぞ、蹴散らせッ!!」
「もっとだ! もっと弾幕を張れッ!!」
雨のような矢がグルゥに降り注ぐ。
大柄な魔人が、単独で城門を目指し侵攻している。
その知らせは瞬く間にジルヴァニアの兵達に伝わり、城壁外の兵士のほとんどが、一箇所に集まりつつあった。
「ぐ…………っ」
大量の矢が平野の土を穿ち、砂埃が巻き起こった。
視界を失ったグルゥは、右腕で頭部を守りつつ、一歩、また一歩と鈍く歩を進めていく。
既に何十本もの矢を受けたグルゥの体は――無傷だった。
「鬱陶しい……前が見えなくなるのが一番面倒だ……ッ!」
木製の矢はグルゥに当たる直前に、その熱で矢尻から灰と化していたのである。
兵士達からは、何本矢を当てても怯むことのない、不死身の魔人に見えているだろう。
「駄目だ、まったく効果がないぞ!?」
「隊長、やはりここは、接近戦を仕掛けるべきではッ」
先頭の部隊の中で、戦術を練ろうとする声が聞こえてきた。
「やめろ……来るんじゃない……っ」
お願いだから、何もせずにこのまま道を開けてくれ。
グルゥは心の底からそう願ったが、その望みが叶うはずもなく――隊列を組んで、五人の小隊が正面から向かってきた。
「でああああああああああああああああっ!!」
上段に振り被った鋼の剣が、真っ直ぐにグルゥに振り下ろされる。
「がッ!?」
分厚く重たい刀身が、グルゥの右腕の三分の一近くまでめり込んだ。




