XXX決戦前夜・獣XXX
前方の一メートル先も見えないような豪雪の中、二人は命からがら洞穴に飛び込んだ。
「オ、オレはもうダメだ……後は頼んだぞミノン……」
「ちょ!? 勝手に死ぬなって!! 今、どうにかして火を起こすから――」
「あ、親父がいる……親父の腕の中……あったかい……」
「い、行くな! そっちに行っちゃダメだキットー!!」
二人はグルゥからの依頼を達成するために、雪深い僻地へと来ていたのだ。
だが、そこで二人を襲ったのは、想像を遥かに超えた大自然の驚異である。
「ほら、火を起こしたから……暖まれって。だいたい、そんな体で無茶をして……ここに来るのもボク一人で良かったんだ」
「そ、そういうわけにはいかないぞ。オレだって、親父の役に立ちたいんだ。それに、道案内を出来るのはオレしかいないし」
ミノンは自身が羽織っていたマントをキットに被せると、さらにその上から、キットを包み込むようにぎゅっと抱き締める。
「……ゴメン。ボクの体じゃあ、体温を上昇させるという目的には不十分かもしれない」
「そんなことない……ミノンの体、あったかいぞ……オレ、眠くなってきた……」
ガクッとうな垂れたキットを見てミノンは焦ったが、すぴーすぴーと寝息を立て始めたのを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「あとは、明日の朝までにこの天候がなんとかなればいいんだけど……」
一人、時が経つのを待つミノンだが――腕の中にはキットがいる。
グルゥの真似をして、キットを抱きかかえたつもりだった。
同じ育ての親を持つ二人は、姉弟と言うべきなのかもしれない。
だが――
「ずるいよキット、君は……いつもグルゥさんのことばかりで、ボクのことなんて、眼中に無いんだ」
あってはいけないことだと思いつつも――ミノンの唇が、そっとキットの頬に触れた。
くすぐったそうに、キットの耳がヒクヒクと動く。
ミノンの中で、何かが音を立てて崩れた――そんな気がした。




