XXX決戦前夜・魔XXX―1
ジルヴァニア城の地下深く。
そこにはユグドラシズが作った魔導の実験室があり、薄緑色の液体で満たされた、大きなカプセルがいくつも並べられていた。
そしてその中では、攫ってきた魔人の少年少女が体を丸めて眠っている。
ユグドラシズは、一つのカプセルの前で、まるで魅入られたように中の少女を見つめていた。
「こんなところに居たのか……王が呼んでたぞ」
ユグドラシズの背後から声を掛ける男が一人。
眼鏡を掛けた、冴えない風貌の中年だった。
まるでこんな場所に居るのが場違いなような、何処にでもいるような男だ。
「おい、聞いてるのか? ……また、その角付きにご執心か」
「美しいものは、いつまで見ていても飽きないんだ……君も、そう思うだろ?」
ユグドラシズの言葉に、男はとぼけるように首を捻った。
「ああ、君にとってはこういう子供たちは、ただの食いものでしかなかったね」
「人聞きの悪いことを言うなよ……、商売道具だ。世の中には、色んな趣味の人間がいるんだよ」
男は、その冴えない風貌からは想像もつかないような邪悪な目を、眼鏡の下で輝かせた。
「下衆だね。こんなにも無垢で平和な存在を、自らの手で穢すなんてさ」
「やってることは変わらないだろ。それよりも、俺といつまでも喋ってていいのかよ。王が首を長くして待ってるぞ」
男の言葉に、ユグドラシズはハイハイとうざったそうに手を振った。
「アイツを利用出来るのも……そろそろ、ってところかな」




