9.ビンタとおっさん―4
「その……家主の方はいないのか?」
「お父様とお母様は、今は漁に出ております。ですので、こうして私が面倒を見ているのです」
グルゥの質問にはテキパキと答えるサリエラ。
妙な興奮さえしていなければ、結構しっかりした子のようではあるが。
「……漁?」
「はい。ここは入り江の村“ニサード”。村が得る収入の大部分は、漁によって得る海産物から成り立っているのです」
村、と聞いてグルゥは首を傾げた。
自分は、テュルグナにてアキトとの戦いに破れ、海の中に落ちたはずだが。
いったい、どこまで流されてしまったのだろうか。
「のんびりとはしていられない……私には、やるべきことがあるのだ。家主の方には申し訳ないが、すぐにテュルグナに向け、出発させてもらう」
「テュルグナへ!? それは無茶です、陸路でテュルグナに向かうには山を越える必要があります。一週間も寝込んでいたのですから、体力が持たないでしょう」
「山? ……というか、一週間っ!?」
サリエラに教えられ、グルゥは思わず言葉を失った。
一週間も気を失っていた――その間に、キットはいったいどうなってしまったのかと。
ミルププも宿に荷物と一緒に置いてきたままだったが、まあアイツはイモムシだし何とかなるだろうと、そこの心配はなかった。
「そうです。ここに来たときは、それはそれは酷い怪我をしていらしたのですよ」
一週間も寝ていれば、『サタン』の血統であれば、確かに傷も治るだろうと、グルゥは改めて納得をした。




