XXX決戦前夜・鬼XXX―2
グルゥ達に置いていかれ、一人、テンザンの空き家で日々を過ごしていたブラン。
今はマリモやカエデに世話をされて、何とか生活が出来ていた。
だが、壊れてしまった心が直る兆しは、未だに見えない。
「あー……お父様……」
窓から差し込む満月の光の明るさに目を覚まし、ブランは体を起こした。
そしてぼーっと満月を見上げていると、ふいにその光が遮られる。
「あ、れ…………?」
窓の外に、何者かが立ちはだかっていた。
そしてその正体に気が付くやいなや、ブランは慌てて、裸足のままで外に飛び出していく。
「お父様、お父様……っ!!」
見間違えようがない。
それは、今のブランが誰よりも会いたいと願っていた、ヴラディオだったのだ。
「私はここに居ます、お父様っ、見捨てないでっ……!!」
何故、ジルヴァニアの王たるヴラディオがこの場に居るのか――そんな至極真っ当な疑問を抱くことも、今のブランは出来なかった。
久しぶりに相対した父は、穏やかな笑みを浮かべて、手招きをして呼んでいる。
「お父様――」
父の胸に飛び込もうと駆け出したブラン。
ヴラディオは大きく手を広げて、ブランを迎え入れようとしたが、
「待てよ」
その間に立ったのは、二人の少女である。
「貴女、何者ですか? どうして、ジルヴァニアの王が此処に」
それぞれ、刀と弓を構えたカエデとマリモだった。
突然、夜中に騒ぎ出したナナに起こされて、二人は見回りをしていたのである。




