85.終・巨人とおっさん―7
その日、デルガドスの下には二つの報告が入っていた。
一つは、神峰エルグドスが火山活動を開始し、その原型を留めなくなるほどに激しい噴火を行ったこと。
そしてもう一つは――国家の危急存亡に、国を挙げての避難を開始しようとしたその途端に、エルグドスは活動を停止し、そのマグマも一瞬で熱を失っていったこと。
臣下達は口々に奇跡だと良い、巨人様が守ってくれたのだと話していた。
だが、グルゥが巨人の試練を受けに行ったことを知っているデルガドスは、一連の現象に不安を隠すことが出来ない。
「ねぇ、おじさまは無事なの? おじさまに、もしものことがあったら――」
ミルププは取り乱し、イモムシの姿だが、その口調は限りなく本心に近いものになっていた。
デルガドスは、その言葉に何を返すことが出来ない。
(何があったのかは知らぬが、いくら『サタン』の血統と言えど、火山の噴火に直撃して生き残ることは出来まい。この子には悪いが、グルゥは、恐らくもう)
病床の中、グルゥの身に起きたことを案じ、ぐっと目を瞑って感情を堪えるデルガドス。
やはり、無理だと言って止めるべきだったのか。
今さら後悔などしても何の意味もないことは分かっていた。
だが、『サタン』の男子にとって、時に無謀とも思える戦いにも挑まねばならないことがあるのもまた事実だ。
「……ミルドラスよ、お前はこれからどうするつもりなのだ」
帰らぬ者をいつまで待っていても、辛いだけだろう。
その心を案じ、デルガドスは窓辺から黒煙をあげる火山の方角を眺め続ける、イモムシのミルププに声を掛ける。
――だが、その時だ。
コンコン、と控えめにノックされる病室の扉。
(まさか、そんなことはあり得ないはず)
身構えるデルガドスの前で、返事も待たずに、病室の扉がゆっくりと押し開けられる。




