85.終・巨人とおっさん―2
死ぬ。
死んだ。
殺された。
私は、死んだんだ。
四肢を失い、臓器を潰され、五感すら無くなったグルゥの精神は、ただ闇の中にあった。
唯一はっきりと分かるのは、自分はこれから死ぬ――ただそれだけ、決定された未来である。
だが逆に言えば、死の冷たい輪郭を感じている間は、まだ生きているということなのだろう。
(しかし、私にはもう何も出来ることがない)
手も足も出なかった。
巨人は、想像を遥かに超えた雲の上の存在だったのだ。
“黒き炎”の力に頼れば勝てるかもしれないという、甘い考えを見透かされていたのかもしれない。
脆い、という言葉は、そんな心の内を看破されていたのだろうか。
(ああ……ごめんよ、みんな……)
サリエラを助けられなかった。
ミルププを裏切ってしまった。
キットとミノンは、依頼から戻ってきて絶望するだろう。
ノニムは――ユグドラシズの手中のまま、一生を終えるのか?
守りたかったものが、手のひらから零れていく。
自分にはもうどうすることも出来ない、無力感が死の輪郭さえも覆ってしまう。
(私は……所詮、この程度のちっぽけな存在だったんだ……)
巨人という圧倒的な種の格差を認識した後の、結論。
グルゥの意識は、絶望の闇の中に落ちていく――その時だった。
『おいおい。まーた俺を無視するのかよ』
暗闇に響く声は、聞き覚えのある少年の声だ。




