84.巨人とおっさん―9
自分を握り潰そうとする巨人の圧倒的な握力。
身動き一つ出来ず、呼吸をすることすら出来ず、グルゥはただ自分の体の中で肉と骨が潰されていく音を聞くことしか出来ない。
「…………ァ、ァッ…………グ…………」
魔獣化の姿が解けていく。
為す術もないまま、ただ無防備な姿、弱い自分の姿を晒していく。
自身を握り潰そうとする巨人は、冷めた目でグルゥを見つめていた。
「脆い。脆過ぎる」
そう言って、巨人は徐々に圧力を強めていく。
その度にグルゥの全身に想像を絶する痛みが押し寄せ、グルゥは声にならない絶叫をあげ続けた。
確かに、巨人と比べれば所詮『サタン』の頑強な肉体など紙屑のようなものなのかもしれない。
だが、まさかここまで種としての差があるとはと――グルゥは自身の認識の甘さを痛感させられていた。
しかし、
「お前の心のことだ」
何かを看破したように、巨人はその言葉を付け加えた。
(私の心が……脆い…………?)
薄れ行く意識の中、グルゥには、その言葉だけは妙にはっきりと聞こえていた。
ここまで、娘達を守るため、一人で戦い続けてきたつもりだった。
確かに、過ちは何度も犯したかもしれない。
それでも、どうにかここまで来れたのは、自分が力を付けた、成長してきたからだと、最近はようやく自分に自信を持つことも出来たのだ。
それを、脆いの一言で片付けられるなんて――
「去ね」
グシャリと音がして、巨人の手のひらから血と肉の飛沫が飛び散った。




