84.巨人とおっさん―8
「この……“黒き炎”の力なら……ッ!!」
グルゥは自身の中の憎悪を沸き立たせ、力の奔流に見身も心も任せようとする。
ベキベキと全身の骨が変形する音が鳴り響き、グルゥの姿は瞬く間に黒き魔獣へと変貌していった。
ここならば、怒りに我を忘れ暴れまわっても、誰もいないから問題ない。
初めから計算ずくのことだった。
そして、かつて巨人の試練から帰還したデルガドスすら恐れる、“黒き炎”の力。
勝算は十分にある。
グルゥは山のように聳え立つ巨人を見上げながら、修復した四肢でふんばり、大きく空に跳び上がった。
「グガアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
既に自我は消失しかけている。
だが、グルゥの行動は自我を失う前でも、後でも同じことだった。
巨人の眼前へと跳躍し、渾身の“黒き炎”をぶち当てる。
巨人が無事かどうかなんてことに興味は無い。
今はただ、己の力のままに破壊を尽くすだけ――それだけだった。
「脆いな」
ただ一言――その言葉が、巨人から発せられるまでは。
たった一言。
咆哮ですらない言葉の圧力だけでグルゥの軌道はずらされて、巨人の眼前で無防備な姿を晒した。
圧倒的な質量を持つグルゥの巨体。
その巨体すらも、巨人は右手一つで易々と掴み取る。
「ガァッ……!?」
想像などしたことない、あるわけがなかった。
魔獣化した自分の体が、片手一本で拘束される姿など。




