84.巨人とおっさん―7
――その、決意を抱いて来たはずだったのに。
目の当たりにした巨人は、グルゥの想像を遥かに凌駕するものだった。
(こんな…………はずでは……)
火山の大地に倒れ伏したグルゥ。
踏み入れた神峰エルグドスの地は、『サタン』の血統であるはずのグルゥの肉体すら焼き焦がすほどの、高温に熱せられていた。
「久しぶりに客人が来たかと思ったが……脆い、脆過ぎる」
遥か頭上から鳴り響いた声はまるで雷のようで、一声轟く度に熱風が巻き起こり、大地を震わせた。
焦げたような黒い地肌に、白い剛毛を身に纏った、獣と人の合いの子ような姿。
それが、ついにグルゥが相対した超越種“巨人”であり――その巨大さは『サタン』の比ではない、優に十メートルを超える規格外の種族であった。
霊薬が欲しいと頼み込んだグルゥに対し、巨人は力ずくで奪ってみろと、戦いを望んだ。
それ自体は、グルゥも予期していたことだった。
ヌエツトの王家として認められるための“巨人の試練”。
当然、それは武勇を示すためのものだと理解していたし、巨人との戦いも覚悟の上であった。
だが、巨人の咆哮を真っ向から食らい、たった一撃、頭上からの張り手を叩きつけられ。
ただそれだけで、グルゥの全身は粉微塵に破壊され、動けなくなってしまったのである。
あまりにも――“種”としての差を思い知らされた、ほんの一瞬の出来事。
「まさか、本当にこれで御終いではないだろうな。お前の前に来た者は、もう少し我を楽しませたぞ」
巨人の言葉に、グルゥはグッと拳を握り締める。
(やはりこの姿のままでは……駄目か)
その“種”に対抗するために、グルゥは禁断の力に手をつけることを決断した。




