84.巨人とおっさん―5
渾身の力を込めた体当たりだったが、イモムシのミルププはぺちっとデルガドスの頬にぶつかると、そのままコロコロとデルガドスの巨体をつたって下に転がり落ちていく。
「ミルドラドッ!!」
その瞬間、グルゥに対する憎しみは何処へやら――慌ててミルププを両手で包み込んだデルガドスだったが、バランスを崩して、ベッドの下に転げ落ちた。
グルゥの足元に落ちたデルガドスの腹部から、真っ赤な血が滲む。
痛みに顔をしかめる姿は、暴君とは思えぬ無様な姿だ。
だがその顔は、ミルププを守れたことにホッと安堵して、慈愛の目で手の中のイモムシを見つめている。
「…………なんだ? そんなに、儂の姿が滑稽か?」
自身を見下すグルゥの視線に気付いて、デルガドスは皮肉げに言ってみせた。
だが、グルゥは黙って首を横に振り、デルガドスのことを肯定する。
「いえ……王にも、まだそのような心が残っているのだと。そう分かって、少し安心しました」
「何が言いたい? 儂は、ただ……このイモムシめを捕らえれば、反逆者の情報を少しでも聞きだせると思っただけだ」
「その必要は、もうありません。何故なら、私は……イルスウォード、いえ“コクア”との和解を、王に提言しに来たのですから」
グルゥの言葉に、デルガドスは今度は眉一つ動かさなかった。
その程度、既に想定済みだ、ということなのだろう。
「誑かされたか」
「違います。ここに来たのは、確かに私の意思なのです。コクアの王、ネアロはイルスフィアの力を結集しユグドラシズに立ち向かうことを目的としています。ですが、そのやり方は武力による統一……私も受け入れることは出来ませんでした。ですが、お互いに和解をすることが出来たなら、その考えも理解することは出来ます」
そう言って、グルゥは横たわったままデルガドスに手を差し出した。




