84.巨人とおっさん―3
「その霊薬を、少し分けて欲しいのです」
グルゥの言葉に、デルガドスの右眉がピクリと動いた。
柔和だった表情が、一変に硬くなってグルゥを睨みつける。
「それがどういう意味か……分かっているのか?」
「もちろん、巨人の霊薬が王家に伝わる秘薬だということは、重々承知しております。ですが、ユグドラシズが跋扈するこの現状……打破するには、その力を得るしかない」
「聞き間違いかと思ったが、どうやら本気で頭が狂ってしまったようだな。それとも、少し外の世界を見ただけで増長したか? 所詮貴様は、我が配下でしかないのだ。貴様を特別扱いし、霊薬を渡すなどあり得ん」
容赦ないデルガドスの言葉だが、グルゥはグッと下唇を食いしばり、言い返すのを堪えた。
ここまでは、想像通りの反応だ。
それならば――懐刀のように忍び込ませていた言葉を、今、解き放とうと、グルゥは重い重い唇を開こうとした。
だが、
「そういうのが、鼻につくってんだよっ!!」
勝手に喋り始める、グルゥの右肩。
突然の暴言に、デルガドスはポカンとしてグルゥを見つめていた。
「な、なんだ……? 腹話術でも身に付けたのか? お前は」
「い、いや、その、これは……」
考えていたプランをぶち壊しにされ、しどろもどろになるグルゥ。
その右肩から、ついに一匹のイモムシが、ひょっこりと顔を出す。




